マツダホームスーパーシリーズという名で12WC5-12YV1A-12ZDH3A-12ZP1A-36ZK12というトランスレス用の真空管が発売されたのは戦後間もない昭和23年のことでした。
トランスレスというのは、云うまでもなく電源トランスを省略し100Vで働くラジオのことですが、このシリーズの中の12ZP1AはB電圧が100Vではまともに働かない球でした。 詳しくは分かりませんが、当時は資源不足でもあり技術力も追い付かなかったのか100Vで働く音声増幅管を作ることができませんでした。 その為、このシリーズのラジオは音声増幅管だけ倍電圧整流によるB電圧給電になっています。そんな貧しい時代のラジオを再現してみることにしましたが、外観は昭和20年後半です。 |
◇シャシ後部◇
左から12WC5-12YV1A-12ZDH3A-12ZP1A-36ZK12です。
この球が発売される前の昭和16年から20年といえば我が国はアメリカと戦争をしていました。
戦争の後半にはアメリカの爆撃機に国内のあちらこちらを焼き払われてしまい輸入も途絶えていました。 そして昭和20年の8月15日、終戦を告げる玉音放送が流れ太平洋戦争に終わりが告げられました。 このような歴史的背景の中で戦後の昭和23年頃は、まだ何もかも不足しており、売られている僅かな品々も質が悪いものでした。 このような時代の事でしたから、庶民の楽しみであったラジオも例外ではなく、製品それに使われている部品も同じでした。 電気も不足であり、夜になって各家庭で電気を使い始めると100Vの電源が50〜60Vに下がってしまう時代でもありました。 |
◇シャシ前面◇
ケースキットは昭和20年後半の製品だと思います。短波の目盛もあります。
このような時代に作られた球なので12BE6相当の12WC5などこのシリーズの球はヒーター電流が0.175Aです。(12BE6などは0.15A)
このラジオを組み立てるにあたり苦労したのは球集めでした。このシリーズ球で12WC5,12ZDH3Aは割合残っていますが、12YV1A,12ZP1A,36ZK12の3種は、まだ沢山使われていた局型123号に流用が可能であったようであり、なかなか出てきません。 それでもなんとかこのシリーズの球を集めることができたので、当まだまだ高級機だったホーム・スーパーシリーズ球で楽しんでみました。 ※局型123号というのは「放送局型123号受信機」のことで昭和10年後半に沢山作られました。 |
◇シャシ裏◇
当然ですが、電源トランスがありません。その為、穴だけ残ります。
年代はアンバランスですが、入れ物はケースキットの箱を利用しました。
ただ、これにはマジックアイ用の窓があって邪魔ですが上手く隠すこともできません。 シャシのように穴を開けたままという訳にもいかず、みっともないのでヒータートランスを付けてマジックアイの6AB5(6N5)とパイロットランプを点火しました。 この6AB5は6E5と違い、リモートカットオフなので、同調しても影がうごくだけで閉じません。 また、スピーカーはパイオニアのP-16です。これも昭和20年後半頃の製品でアンバランスになりました。 |
◇回 路 図◇
PAの給電はオリジナルとは異なります。
電源回路でオリジナルと異なる点は整流を半波倍電圧としました。
マツダの原型では両波倍電圧となっていますが、この方式ではヒーターに直流の電圧が印可され、ヒーターとカソード間の耐圧が心配です。 真空管末期の球でしたらこれらはまだ安心かもしれませんが、なにしろ作られた時代は材料不足で品質的も心配でした。 最後になりますが、このシリーズの球を使ったラジオは、マツダ、キャラバン、アリア、テレビアン、ナナオラなどがあります。 |
<2013.02.19>